クメール解放戦線時代第1話

  クニョム タウイン!!・・・また来るぜ!!

彼は、齢18、どうしたって中学生にしか見えない体つ
きで、戦争の最前線に送られて対人地雷に触れて両目
と片足が無い。
辞書を片手に、少しずつ話が出来る様に成るとカンボジ
ア人の優しい心根がヒシと伝わって、ジェノサイトの国が
何故、始まったのか全く想像も及ばない。

彼の純粋な心に、学生の自己満足が恥ずかしい。

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もうこの青年とは、二度と会う事はないのだろうか?
戦渦で、生き残り川の水を沢山のんで、肝炎を発病
し5度目の訪問を最後に帰国の途についた私の脳裏
には、抱えきれない忸怩たる思いが渦巻いていた。

1981年の夏 カンボジア

まだ学生だった私はこれと言って政治的哲学がある訳
でも無く、ただぼんやりとテレビ画面に写る異国の惨劇
を他人事として見流していた。

まさか自分が、その惨劇の真っ只中に赴いて、忘れ得ぬ
自己の原点に突き進むなどとは考えも及ばなかったので
ある。

テレビからは「金は出すが、人は出さない日本」への国際
的な非難の声が紹介され、若気の至りとはこう言うものだ
ろう・・・・アルバイトで握り締めた幾ばくかの金を叩いて、
バンコク行きの安チケットを買い求めて、待ち構える危険
など考える術なく、11日後には成田のターミナルにバック
パック一つで立っていた。

かくして、バンコクに降り立って、国連の高等難民弁務官
UNHCR
の事務所を探す内に、同じ思いの若い日本人に
出会い、現地で日本ボランティアセンターを皆で立ち上げ
て難民救済の活動に乗り出した。

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カオイダン難民キャンプチーム
クロントイスラム救済チーム
国境隊


カオイダン難民キャンプチーム
クロントイスラム救済チーム
国境隊

最初の仕事は、この3チーム編成で展開され各々が試行錯誤の
繰り返しの中、現地の要請やUNの指示に従って実施された。
私は国境隊となってタイ南部の都市チャンタブリーからブッシ
ュを数キロ入ったボーライ村に医薬品(主に結核薬のストレプ
トマイシンや手術道具)等を搬送する事となった。

現地では既にフランスの国境無き医師団や米国のチームが命が
けの救済活動を展開している中で、別に日本を代表している積
りは無いが、心して事にあたらねば、国の汚辱になるだろうな
んて、若気の至りが満開の青年だったと今は思う。

ここから数キロ先には野戦病院、更に先は戦場が待っている。
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タイ国境警備隊の方々と交渉してカンボジア領内に入ると
次第に緊張が走る。映画で見る戦争ではなく弾にあたれば
そのまま天国行きが約束される。

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ボーライ村近くのクメール解放戦線の補給基地に拠点を
設け、ここから最前線に医薬を搬送する。
写真の隣の方は解放戦線の軍曹で我々の護衛を担務し
事あれば、勿論、その場で戦闘行為に入る事になる。
歴戦の印が足と背中に印されて、その凄まじさとは裏腹
に、親切で信心深い人の印象が今でも脳裏に去来する。

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椰子の葉っぱを吹いた屋根の掘っ立て小屋にハンモックを
吊るして寝泊りした。マラリア蚊の襲来に怯えつつも最初は
平安な日々が続き、緊張も解け戦争を忘れる日々に時々、
軍曹から銃の撃ち方を教わる事ができた。
しかし、実戦で我々が銃を持つことは許されないし、その自
信など全く無い!!

M-16機関銃は1発30円の弾を単発と連発で撃つ事が
出来る、直系10cm程度の椰子の木など吹っ飛ぶ威力だ!
しかし、そう簡単にあたるものでは無い!

無事に任務を終えて、バンコクに戻り、次の搬送の準備を
するが、次回の搬送までにかなりの時間が有って、個人で
一之瀬泰三氏が戦渦で亡くなったアジアハイウェイ3号線
別名・・・・・死の3号線を見てみたいと思い立ち、タイ東北部
国境の要所であるアランヤプラテートにバスで向かう。

カンボジア国境は目と鼻の先だ。3号線を突き進むと、あの
有名なアンコールワットに通じる。道路は至る所、穴だらけ
で戦争の傷跡などでは無く、血の滴る生傷の様相である。

ここから先の写真が無いのは、密輸の連中に忍び込んで、
最前線近くで、国境警備隊にフイルムを没収されたからで
ある。


午前3時、約束の時間に、彼らは私の木賃宿にやって来た。
他に欧米のカメラマン、リポーターの計3名が密輸に乗じて
カンボジア領内に潜入する。

ホロのあるトラックに既に1時間は揺られている。
次第にブッシュの夜明けが近い!!

カンボジアを傀儡するベトナム軍はマライ山の頂上に大砲を
据え付けて、国境近辺のクメールルージュにキッカリ7時に
放火を浴びせる。必ず毎朝、ドーーーンドーーーンと意味の
薄い攻撃をするが、住民は勿論、我々も慣れっこに成ってい
る。

トラックが止まり、緊張が走る、ここからブッシュを徒歩で進み
前線基地に近い所で、物資の取引が行われるのだ。

黙々とブッシュを歩く!!
熱帯特有の湿気が襲う!
マホガニーの大木が所々に聳え立ち、独特の風景が続く。

小1時間がが経っただろうか?ブッシュが開けて畑地の様な所
に出た!!その時である!!

パンパンパン・・・・・・カンシャク玉の弾ける様な音が、ブッシュの
切れ目のこの空間にコダマする。

パンパンパンパンパン・・・・・・時々閃光が走る!!

カー------と神経が緊張の極みにたって行く!
カー―ーーーーー!!
この時の感覚は良く覚えていないが,生命の危険に直接触れた際
の精神的反応として、血圧の急上昇に伴う思考停止と命を守る
本能が支配していたのだろうと、回想する。

              パンパンパン

              足が動かない!

              弾の空気音???


誰かが私の脇から腕を引っ張って、ゴロンと転びながらマホガニ
ーの大木の後ろに飛び込んだ事すら覚えていない。

カンシャク玉の音が鳴り止むまで私の人生の中で最も長い20分
が過ぎた!!今考えればたった20分の永遠が、そこに横たわって
いたのだと感じている。あのヒュンと唸る弾丸が命中すれば、私の
今は無いのだから!?

随分時間が経って、やがて立ち上がる。
シンと静まり返った辺り一帯が不気味だ!

ぞろぞろと密輸の連中が集まる。外人カメラマンも無事な様だ。
多分、一人の死傷者もでなかったのだろう??

少し安心すると、異様に喉が渇いた、近くの川で・・・・・これが
信じられない位綺麗な水を湛えているではないか!?
皆がそこで水を飲むので、私も勿論、喉を鳴らしてゴクゴクと干上
がった心と体を潤した。

この行為が後でトンでも無い事になるなんて、その時は全く考えも
及ばなかったのである。

第1話 完

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